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付着歯肉を補う「遊離歯肉移植術」ってどんな治療?

付着歯肉を補う「遊離歯肉移植術」ってどんな治療?

「歯磨きすると歯ぐきが痛い」「歯が長くなったように見える」「冷たいものがしみるようになった」
こんなお悩み、ありませんか? もしかしたら、それは歯を支える大切な「付着歯肉(ふちゃくしにく)」が足りなくなっているサインかもしれません。

今回は、この失われた歯肉を取り戻し、お口の健康の土台を再建する「遊離歯肉移植術(ゆうりしにくいしょくじゅつ)」について、わかりやすく解説していきます。

そもそも「付着歯肉」って何? なぜ大切なの?

歯の周りの歯肉をよく見てみてください。歯にぴったりとくっついていて、歯ブラシで擦っても簡単には動かない、少し硬くてピンク色の部分がありますよね。これが「付着歯肉」です。
付着歯肉は、まるで歯の周りを守る”堤防”のような役割を担っています。

  • 歯磨きの力から歯を守るクッションになる
  • 食べ物などの外部からの刺激に耐える
  • 細菌が歯の根の方へ侵入するのを防ぐ

この付着歯肉が、強すぎるブラッシング、歯周病、歯並びなどの影響で失われてしまうと、堤防が決壊したように、様々な問題が起こり始めます。歯の根元が露出し、その下にあるデリケートな歯肉(歯槽粘膜)が剥き出しになってしまうのです。この状態では、歯磨きのたびに痛みを感じてしまい、汚れをしっかり落とせません。その結果、歯周病がさらに進行したり、露出した歯の根が虫歯になったりする悪循環に陥ってしまいます。

この失われた”堤防”を再建する手術が、今回ご紹介する「遊離歯肉移植術(FGG:Free Gingival Graft)」です。

遊離歯肉移植術(FGG)とは?

一言でいうと、「ご自身の口の中から丈夫な歯肉を少しだけ採取し、足りない部分にお引越し(移植)させてあげる」治療法です。
歯肉を採取する場所(ドナーサイト)は、主に上あごの口蓋(口の天井部分)です。この部分の歯肉は、もともと硬く丈夫な「付着歯肉」の性質を持っているため、移植に最適です。

治療の目的

FGGの最大の目的は、見た目の改善よりも「機能の回復」にあります。つまり、ブラッシングに耐えられる丈夫な付着歯肉を獲得し、ご自身で清掃しやすい環境を整えることです。これにより、歯周病の進行や再発を防ぎ、歯の寿命を延ばすことにつながります。インプラント治療の際に、インプラントを長持ちさせるための土台作りとして行われることもあります。

どんな人が治療を受けるの?

  • 歯肉が下がってしまい、付着歯肉がほとんどない方
  • 歯磨きの時に歯肉が痛くて、しっかり磨けない方
  • 歯の根が露出して、冷たいものなどがしみる方
  • このままだと、さらに歯肉が下がってしまうリスクが高い方
  • インプラントや矯正治療の前に、丈夫な歯肉の土台が必要な方

治療の流れと術後のこと

【手術の流れ】

  1. カウンセリングと検査
    まずは、お口の状態をしっかり検査し、本当にこの治療が必要か、どのような計画で進めるかを相談します。
  2. 麻酔
    歯肉を移植する場所と、採取する上あごの両方に、しっかりと局所麻酔をするので、手術中に痛みを感じることはありません。
  3. 移植場所の準備
    歯肉が足りない部分をきれいに整え、移植の準備をします。
  4. 歯肉の採取と移植
    上あごから必要な分だけ歯肉を切り取り、移植したい場所に置き、極細の糸で丁寧に縫い付けます。
  5. 傷口の保護
    歯肉を採った上あごの傷は、保護材や特殊な「かさぶた」のようなもので覆います。場合によっては、傷口を保護するマウスピース(シーネ)を作ることもあります。

    手術時間はおおよそ1時間~1時間半程度です。

【術後の過ごし方】

手術である以上、術後には多少の痛みや不快感が伴います。特に、歯を移植した場所よりも、歯肉を採取した上あごの傷の方が、食べたり飲んだりするときに少ししみるような痛みを感じることが多いです。ただ、痛み止めを処方しますし、この痛みは1~2週間で徐々に落ち着いていきます。

  • 食事
    術後しばらくは、おかゆやスープ、ヨーグルトなど、硬いものや刺激物を避けた、柔らかい食事を心がけましょう。
  • 歯磨き
    傷口を直接磨くのは避けてください。処方されるうがい薬を使ったり、傷以外の場所を丁寧に磨いたりして、お口を清潔に保ちます。1~2週間後の抜糸が終われば、徐々に通常のケアに戻していきます。
  • 注意点
    喫煙は血流を悪くし、移植した歯肉の治りを著しく妨げます。成功率を大きく下げる最大の要因ですので、術前からの禁煙が強く推奨されます。

症例A:60代女性

施術前

施術後

施術前後比較

症例B:50代女性

施術前

施術後

施術前後比較

まとめ:未来の歯を守るための「土台作り」

遊離歯肉移植術は、歯肉が後退してしまったお口の中に、再び「付着歯肉」という名の頑丈な土台を取り戻すための、非常に信頼性の高い治療法です。
この治療によって丈夫な歯肉を獲得できれば、日々の歯磨きがしやすくなり、お口の衛生状態を格段に向上させることができます。それは、歯周病の進行を食い止め、大切なご自身の歯やインプラントを、長期にわたって健康に保つことに直結します。
「自分の歯肉は大丈夫かな?」と少しでも気になった方は、ぜひ一度、お気軽に相談してください。未来のお口の健康を守るための、大切な一歩になるかもしれません。

執筆者

執筆者 服部 輝代子

たつみがおか歯科 院長

たつみがおか歯科の服部です。2002年5月の開院依頼、愛知県知多市の地域の皆様のお口の健康を守っていきたいと考えております。このブログでは当院の様子や私が参加した研修や学会についてご紹介していきますので、ぜひご覧ください。